今回は既存建物をリノベーションした美容院『AMOR』を例に、店舗の外観をどのように考えたのかをご紹介します。
この建物は、もともと約20年間、美容室として使われていた建物です。
オーナーが変わることをきっかけに、新しい美容室として改装することになりました。
前面道路は、通勤や日常生活で利用する車の交通量が多く、地域の方が毎日のように建物の前を通ります。
用途は以前と同じ美容室です。
だからこそ、
「以前とは違う店になったことを、どうすれば自然に伝えられるか」
「毎日前を通る人に、少し気になってもらい、行ってみたいと思ってもらえるか」
ということが、外観計画の大きなテーマになりました。
既存建物を壊さず、印象だけを大きく変える
改装前の建物は、白い外壁と大きなガラス面で構成された、シンプルで整った建物でした。
建物自体に大きな問題があったわけではありません。
そのため、外壁に新しくタイルを貼ったり、大掛かりな造作を追加したりして建物を作り変える必要はないと考えました。
また、予算にも限りがあります。
そこで今回の外観では、既存建物の形や大きなガラス面をそのまま生かしながら、「色」によって印象を変えることを考えました。
提案したのは、それまでの白とは大きく異なる、赤土を思わせる暖かな赤系の外壁色です。
建物の形はほとんど変わっていません。
それでも外壁の色が変わるだけで、建物全体の印象は大きく変わります。
白い案と比較して、本当にこの色でよいか確認する
普段あまり建物に使わない色を採用する場合、色見本だけを見て完成後の印象を判断することは簡単ではありません。
特に今回のように外壁全体の色を大きく変える場合は、お施主さまにとっても判断の難しい選択になります。
そこで、赤系の案だけを提示するのではなく、白い外壁のまま改装した場合のCGも作成しました。
二つの案を同じ条件で比較することで、
「赤い色が良いか悪いか」ではなく、
「この店舗をどういう印象にしたいのか」
という視点から判断できます。
CGは完成形を見せるためだけではなく、複数の選択肢を比較し、設計の方向性を共有するためにも活用しています。
植栽と相性の良い外壁色を考える
この赤系の色を選んだ理由の一つが、植栽との相性です。
AMORでは、外観だけでなく造園も計画の重要な要素として考えていました。
赤土のような暖かな色と植物の緑を組み合わせることで、建物だけが強く主張するのではなく、植栽を含めた外観全体として印象に残る店舗にしたいと考えました。
色を検討する際に参考にしたものの一つが、名古屋にある南山大学の建築です。
アントニン・レーモンドによるキャンパス建築などに見られる、赤土を思わせる建物の色と周囲の緑との関係が印象的でした。
AMORでは南山大学と同じ色をそのまま使用したわけではありませんが、暖色の建物と植物が互いを引き立てる関係を参考にしています。
最終的な色については、実際の塗装サンプルを確認しながら調整しました。
また、この色の考え方はオーナーだけでなく、今回の計画に参加した造園家とも共有しながら進めました。
外壁と植栽を別々に決めるのではなく、最初から一つの外観として考えることが重要だと考えています。
建物の色と植栽で、新しい店舗の顔をつくる
完成後のAMORです。
建物の基本的な形状は、改装前から大きく変えていません。
しかし、白かった外壁を暖かな赤系の色へ変更し、その前に植栽を重ねることで、以前とは大きく異なる柔らかな印象の建物になりました。
既存建物をリノベーションする際、必ずしも多くのものを追加する必要はありません。
今ある建物のどこを残し、どこを変えれば最も効果があるのか。
それを見極めることも、リノベーションでは重要だと考えています。
外観とインテリアの印象をつなげる
外観だけでなく、店内にも木や植物を多く取り入れています。
床には無垢材のフローリングを使用し、受付には籐やオークを使った直径約2.4mの円形カウンターを設けました。
大きなガラス面の外側には植栽があり、カットスペースからも緑を感じられます。
植栽を通した柔らかな光が室内に入り、外観でつくった「暖かな色と緑」という関係が、インテリアにもつながっています。
外観とインテリアを別々にデザインするのではなく、色、素材、植物を通して建物全体に共通する雰囲気をつくることを意識しました。
店舗に必要な「目立つ」と「派手」は違う
商業施設では、ある程度「目に留まること」が必要だと考えています。
どれだけ良い空間をつくっても、その場所の存在に気づいてもらえなければ、お店へ入るきっかけをつくることはできません。
ただし、
「目立つこと」と「派手にすること」は同じではありません。
大きな看板や強い装飾を追加しなくても、色、素材、植栽、照明、建物の形などを適切に組み合わせることで、人の目に自然と留まる店舗をつくることはできます。
AMORの場合は、既存建物のシンプルな形をそのまま生かしながら、外壁色と植栽によって新しい店舗の存在を伝えることを考えました。
夕方から夜になると、ガラス面から漏れる室内の光と外壁の暖かな色、植栽の影によって、昼間とはまた違った表情になります。
限られた予算を、デザインの条件として考える
店舗のリノベーションでは、予算に限りがあることがほとんどです。
しかし、コストを掛ければ必ず良いデザインになるわけでもありません。
今回のAMORでは、大掛かりに建物を作り変えるのではなく、
既存建物を生かす
外壁を塗装する
植栽を計画する
という比較的シンプルな操作を中心に、建物の印象を変えています。
予算が限られているからこそ、
「どこにコストを掛けるべきか」
「何を変えなくてもよいか」
「少ない操作で、どれだけ大きな効果をつくれるか」
を考えることが重要になります。
制約を単純なマイナスとして捉えるのではなく、その条件だからこそ生まれるデザインを考える。
イクスデザインでは、限られた予算の中でも、その店舗が持つ魅力を最大限に引き出す方法を検討しています。