今回は、テナント施設におけるインテリアのプランニングについてご紹介します。
計画地は、古い町並みが残る名古屋の円頓寺・四間道エリア。新築された木造商業施設の一画に計画した、オーダースーツサロン『DEFFERT』です。
これまで出張を中心にオーダースーツを提供してきたオーナーが、新たに構える実店舗として計画が始まりました。
オーナーのご要望で必要な要素は
▫︎打合せテーブル
▫︎バーカウンター(キッチン付き)
▫︎ラウンジスペース
▫︎デスクスペース
▫︎フィッティング
▫︎バックヤード
というものでした。
限られた約16坪の中に、これらの要素をどう配置するか。
今回は、最初から一つの答えを決めるのではなく、プランをつくり、オーナーとの対話を重ねながら、本当に必要なものを一つずつ整理していきました。
1st PLAN|まずは要望をすべて盛り込む
最初のプランでは、いただいたご要望をできるだけそのまま配置しました。
約16坪の空間に、打ち合わせテーブル、バーカウンター、ラウンジ、デスク、フィッティング、バックヤードと、それぞれ独立した機能を盛り込んでいます。
必要なものは一通り入っています。
一方で、図面にしてみると、それぞれの機能が空間を細かく占有し、店内にゆとりがなくなっていることも見えてきました。
要望をすべて叶えることと、魅力的な店舗をつくることは、必ずしも同じではありません。
ここから、「何を残し、何を兼用できるのか」をオーナーと一緒に考えていきました。
2nd PLAN|機能を兼ねることで、空間にゆとりをつくる
打ち合わせを重ね、まず見直したのがデスクスペースです。
独立したデスクを設けるのではなく、バーカウンターにデスクの機能も持たせることで、一つの家具に複数の役割を持たせました。
小さな店舗では、必要な機能を一つずつ別の場所に設けていくと、それだけで空間が埋まってしまいます。
一つの場所を状況に応じて使い分けられるようにすることで、必要な機能を保ちながら、空間に少しずつ余白をつくっていきました。
3rd PLAN|この店で一番大切な体験は何か
さらに打ち合わせを重ねる中で、「オーダースーツサロンとして、この店で一番大切なことは何か」を改めて考えました。
そこで重要な要素として見えてきたのが、フィッティングです。
採寸をする。
試着をする。
生地を体に合わせながら確認する。
こうした時間は、既製品を購入する店舗にはない、オーダースーツならではの体験です。
そこでフィッティングを店の奥に隠れた機能として扱うのではなく、店舗の中心となる体験の一つとして、メインスペースへ移しました。
同時に、バーカウンターと打ち合わせテーブルの役割をまとめ、キッチンや事務作業など、お客様から見せる必要のない機能はバックヤード側へ整理しました。
必要なものを削ったというより、
「お客様に見せたいもの」と「裏側にあるべきもの」を整理したという考え方です。
ここから、DEFFERTという店の性格がプランの中にはっきり現れ始めました。
4th PLAN|空間の広がりまでデザインする
最終段階では、機能だけでなく、店に入ったときの「空間の感じ方」についても検討しました。
ラウンジスペースをより広く感じられるよう、バックヤードとの境界となる壁を斜めに配置しています。
壁を斜めにすることで、入口から奥へ向かう視線が広がり、同じ床面積でも空間に奥行きを感じられるようになります。
ここでも、単に変わった形をつくることが目的ではありません。
必要なバックヤードを確保しながら、表側の空間をできるだけ豊かにするために、壁の位置と角度を調整しています。
また、外部にはショーウィンドウを設置しました。
出張で店舗を留守にすることもあるというオーナーの働き方を考え、ショーウィンドウの造作に宅配ボックスとしての機能も持たせています。
デザインのためだけの造作ではなく、見せる機能と実用的な機能を一つにまとめました。
プランから生まれたインテリアコンセプト
こうしてプランを整理していく中で、最終的なインテリアの方向性も明確になっていきました。
DEFFERTで考えたコンセプトは、
「オーダースーツを、バーで一杯を楽しむような感覚でゆっくり選べるサロン」です。
店内の中心には、長いバーカウンターを配置しました。
お客様はカウンターに座り、お酒を選ぶように背面に並ぶスーツの生地を眺めながら、テーラーとの会話を楽しみます。
通常の物販店のように商品を眺めて回るのではなく、テーラーと対話しながら一着のスーツをつくっていく。
その「接客の仕方そのものを空間にする」ことを考えました。
カウンターにいくつもの機能を持たせる
カウンターの端部は大きく円形に張り出しています。
この円形部分は、デザイン上のアクセントであると同時に、採寸をしたり、生地を大きく広げたりするためのスペースとして使用します。
カウンターには、
お客様との打ち合わせ
生地や仕様を選ぶ
採寸する
生地を広げる
という複数の役割があります。
限られた面積の中で一つの家具に複数の機能を持たせることで、空間を細かく分けずに済み、結果として店舗全体にゆとりを残すことができました
見た目だけでなく、デザインに意味を持たせる
店内で象徴的な存在となっている白いタイルの壁には、ヘリンボーン柄を採用しました。
ヘリンボーンは、スーツやジャケットの生地にも使われる代表的な柄の一つです。
そのパターンをタイルの貼り方へ置き換え、さらに部分的に真鍮のラインを入れています。
この真鍮は単なる装飾ではなく、服を仕立てる際のステッチをイメージしたディテールです。
オーダースーツ店だからスーツのモチーフを直接飾るのではなく、
その店の仕事や商品が持つ特徴を、素材やディテールへ置き換える。
そうすることで、店舗のコンセプトとインテリアのデザインをつなげています。
プランの答えは、対話の中から生まれる
イクスデザインでは、できる限りお施主さまのご要望を実現したいと考えています。
しかし、いただいた要望をすべてそのまま入れることが、必ずしも良い空間につながるとは限りません。
今回のDEFFERTでは、最初からこちらの判断で要素を削るのではなく、まずは一度、すべての要望を図面にしました。
そのプランを見ながら、
「本当に必要なのか」
「別の場所と兼ねることはできないか」
「この店で一番大切な体験は何なのか」
をオーナーと一緒に考えていきました。
1st PLANでは、要望をすべて入れる。
2nd PLANでは、機能を兼ねる。
3rd PLANでは、フィッティングという店の核を見つける。
4th PLANでは、その考えを空間の広がりや外部との関係まで発展させる。
この過程を経て、最初のプランにはなかった「DEFFERTらしさ」が少しずつ生まれていきました。
店舗のプランニングでは、必要な機能をすべて入れることだけが目的ではありません。
何を残し、何をまとめ、何を主役にするのか。
要素を整理することで、その店だからこそ必要なものが見えてくることがあります。
設計者が一方的に答えを決めるのではなく、お施主さまと対話し、プランを比較しながら優先順位を共有していく。
その積み重ねが、その店ならではの魅力を持った空間につながると考えています。