今回は、R ART OF COFFEE 本山店の改装を例に、店舗の外観デザインがどのように変化していったのかをご紹介します。

今回の改装は、既存店舗に新たに焙煎機を設置することがきっかけでした。

限られた店内で焙煎機をどのように配置するか。外観をどこまで変えるのか。そして、この店をこれからどのような場所にしていくのか。

オーナーと何度も打ち合わせを重ねながら計画を進めました。

01 改装前のR ART OF COFFEE本山店
01 改装前のR ART OF COFFEE本山店
02 改装前のファサード
02 改装前のファサード

街に開いた店をつくる、という最初の提案

この店舗の特徴の一つが、前面道路に沿って比較的広い歩道があり、散歩をする人や近隣の方が日常的に行き交う立地であることです。

そこで最初に考えたのは、
「街に開いたコーヒースタンドをつくる」
という計画でした。

既存のファサードを折れ戸に変更し、営業時には大きく開放できるようにする。

道路から数段上がった店内の床と外部をウッドデッキでつなぎ、そのまま腰掛けてコーヒーを飲める場所をつくる。

道を歩いている人が店内の様子を感じ、気軽に立ち寄れる店舗をイメージしました。

03 提案01|折れ戸を全開放し、街とつながるファサード
03 提案01|折れ戸を全開放し、街とつながるファサード
04 提案01|建具を閉じた状態のファサード
04 提案01|建具を閉じた状態のファサード

立地条件から考えれば、自然な提案だったと思います。

しかし、この案をもとにオーナーと打ち合わせを続けていくうちに、少しずつ違和感を感じるようになりました。

そこで改めて考えたのが、
「この店は、誰のための場所なのか」
ということでした。

「来てもらうための店」だけで考えない

最初の案は、これまでのお客様や道行く人が立ち寄りやすくなることを重視したデザインでした。

もちろん、店舗である以上、お客様にとって居心地がよく、入りやすいことは大切です。

ただ今回、焙煎機を導入することで、R ART OF COFFEE本山店の使われ方自体が変わろうとしていました。

店舗として営業する日数が少なくなる一方で、オーナーは焙煎作業のために店内で過ごす時間がこれまで以上に長くなります。

コーヒー豆の焙煎は、時間や温度を細かく確認しながら何度も試行錯誤を重ねる、集中力の必要な作業です。

そう考えると、この場所で最も長い時間を過ごすのは、必ずしもお客様ではありません。
オーナー自身です。

そこで、
「お客様が入りやすい店」から、「オーナーが長時間作業していても心地よく過ごせる店」へ
設計の視点を少し変えてみることにしました。

働く人にとって心地よい外観を考える

新しい提案では、最初の案とは反対に、店を大きく道路へ開くのではなく、ファサードの前にできるだけ多くの植栽を配置しました。

05 提案02|植栽でファサードを包む計画
05 提案02|植栽でファサードを包む計画

登山を趣味とするオーナーにとって、自然は身近な存在です。

焙煎中、カウンターの中で長い時間を過ごすときにも、視線の先に植物があり、季節や光の変化を感じられる。

植栽を単なる外観の装飾としてではなく、店内で働く人の環境を整えるためのものとして考えました。

06 提案02|植栽越しに店内を見る
06 提案02|植栽越しに店内を見る

植栽が道路と店内の間に入ることで、外からの視線を柔らかく遮りながら、店内からは緑を感じられます。

街に対して完全に閉じるのではなく、植物を介してゆるやかにつながる関係をつくりました。

オーナーの「部屋」と「ラボラトリー」

R ART OF COFFEEは長年営業を続け、すでに多くのお客様との関係を築いています。

そのため、本山店では大きな看板を掲げ、遠くからでも店舗の存在を強く主張する必要はないと考えました。

目指したのは、
オーナーの部屋であり、コーヒーを探究するラボラトリーでもあるような場所。
焙煎という仕事に集中でき、それでいて訪れたお客様とは自然に会話が生まれる。

R ART OF COFFEEらしい少し静かな佇まいを外観にも表現しました。

07 完成|植栽と斜め張りの木製建具で構成したファサード
07 完成|植栽と斜め張りの木製建具で構成したファサード

既存の店舗にあった「店らしいファサード」を一度リセットし、木製建具とガラス、植栽を中心としたシンプルな構成に変更しています。

木製建具は板を斜めに張ることで、閉じた状態でも外観の一つの表情となるようにしました。

08 完成|植栽越しに街とつながる店舗正面*を見る
08 完成|植栽越しに街とつながる店舗正面*を見る

天候のよい季節には、店の前でコーヒーを飲むこともできます。

最初の案のように店舗全体を大きく開放することはしませんでしたが、街との関係をなくしたわけではありません。

必要なときには外とつながりながら、普段はオーナーが落ち着いて仕事のできる距離感をつくっています。

サインは、あえて小さく

店舗のサインも、大きく目立たせるのではなく、植栽の奥に控えめに配置しました。

09 植栽の奥に設けた銅製のサイン
09 植栽の奥に設けた銅製のサイン

素材には銅を使用しています。

時間とともに少しずつ表情が変化していく素材を使い、小さなサインの中にもオーナーのこだわりや店の世界観が感じられるようにしました。

「ここに店があります」と強く主張するのではなく、

植物の奥に何かあることに気づいてもらう。

そんな見え方が、この店には合っていると考えました。

10 改装後のR ART OF COFFEE本山店*
10 改装後のR ART OF COFFEE本山店*

「入りやすい店」が、すべての店の正解ではない

完成した外観を見ると、一般的な店舗に比べて少し入り口が分かりにくく、初めて訪れる方には入りにくいと感じられるかもしれません。

けれど、それも含めて今回のデザインです。

店舗設計では、
「目立たせる」
「入りやすくする」
「中の様子を見せる」
ことが正解のように考えられることがあります。
もちろん、それが必要な店舗もあります。

しかし、その店がすでに持っているお客様との関係や、オーナーの働き方、そこで行われる仕事まで考えると、必ずしも同じ答えになるとは限りません。

今回の計画では、
「どうすれば多くの人に入ってもらえるか」ではなく、「誰がこの場所で、どのような時間を過ごすのか」
を考え直したことで、最初とはまったく違う外観へたどり着きました。

11 植栽越しに見える店内とオーナー
11 植栽越しに見える店内とオーナー

デザインは、形や色を決めることだけではありません。

最初に考えた答えに違和感があれば、一度立ち止まり、
「そもそも、誰のためにデザインしているのか」
まで戻って考えてみる。

今回のR ART OF COFFEE本山店は、そのことを改めて考えさせられたプロジェクトでした。

インテリアについても、コーヒーやオーナーの考え方から導いたさまざまなディテールがあります。

今回は外観デザインについてご紹介しましたが、インテリアについては別のコラムでご紹介したいと思います。

執筆:イクスデザイン 小林正和

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